乳頭乳輪再建の方法 ~ 再建方法の組み合わせ ~


1 はじめに(総論)


もう何年も前のことになりますが、2016年11月に名古屋で開催された『乳房再建キャラバン in 名古屋』での質疑応答で、乳頭乳輪再建に関する質問を沢山いただきまして、インターネット上でも、乳頭乳輪に関する情報がまだまだ少ないのかもしれないと気付きました。

そこで、かなり長い解説になりますが、乳頭乳輪再建についての基本情報をまとめてみたいと思います。

乳頭乳輪再建に関しては、手術のバリエーションが非常に多く、しかも医師によって得意とする方法も様々なうえ、医師がそれぞれの経験に基づいた独自の工夫を加えていますので、なかなか一般論として語るのが難しい分野です。私の個人的なお勧めとしては、患者さんがまず大まかな希望を決めたら、さらに細かい手技については主治医の得意とする方法に委ねるのがよいのではないかと思っています。

そこで、まずは、「大まかな希望を決めるため」に、乳頭乳輪に関する一般的な内容から説明をします。

 

乳頭乳輪の再建は、大きく、

①乳頭の高まりを何で再建するか

②着色の方法をどうするか

という二つのポイントに分けて考えると理解しやすいと思います。

 

①乳頭の高まりを何で再建するか、という点については、
(1)健側の乳頭を半分移植する
  (2)局所皮弁で再建する

②着色の方法をどうするか、という点については、
(1)植皮を行う
  (2)タトゥーを行う

という方法がそれぞれあります。

以上を組み合わせると、以下の4種類に大別することができます。

➊「健側乳頭半分移植」+「植皮」
➋「健側乳頭半分移植」+「タトゥー」
➌「局所皮弁」+「植皮」
➍「局所皮弁」+「タトゥー」

これらを前提として、以下で詳しく解説していきたいと思います。

 

 


 2 ➀の「(1)健側の乳頭を半分移植する方法」


まずは、「➀乳頭の高まりを何で再建するか」という点から話を進めたいと思います。

乳頭の高まりを何で再建するかについては、「(1)健側の乳頭を半分移植する」、「(2)局所皮弁で再建する」という二つの選択肢があることはご紹介しました。

まずは、このうちの「(1)健側の乳頭を半分移植する方法」について詳しく説明します。

 

【その1】 採取の方法


『乳房再建カラーアトラス(編著:矢永博子・野平久仁彦)』の図を参考にさせて頂きました。

どの方法で採取するかは、その患者さんの乳頭の形態によりますが、私の場合は楔形に採取することが多いです。これは術者の好みや慣れによりますので、術者の判断に任せる方がよいと思います。術後の固定方法や、安静その他の詳細については、後の方で、乳輪との組み合わせ例ごとにご紹介します。

 

【その2】 どういう患者さんに適しているか?
「健側の乳頭を半分移植する方法」は、健側の乳頭に手術操作を加えることに抵抗がない方であれば、どなたでも適しています。逆に、健側を切るのは嫌だという方や将来授乳の可能性がある方には適していません。将来健側で授乳の可能性がある方は、授乳によって乳頭の形態が変わりますので、急いで乳頭の再建を行わず、シリコン製の人工乳頭を使用するのも一つの考えだと思います。

 

【その3】 整容性・耐久性は?
個人的には、健側からの乳頭の移植が、整容的にも耐久性にも最も優れている方法だと考えています。ですので、私個人としては、健側を切るのが絶対に嫌だという患者さんでなければ、一番にオススメしてしまう方法です(もちろん、最終的には患者さんのご希望を最優先します)。

 

【その4】 授乳で伸びてしまった乳頭や元々変形した乳頭でも採取できるか?
可能です。美容外科クリニックに勤務していた時代に、大きい乳頭乳輪を小さくしたり、授乳で伸びてしまった乳頭の形態を整える手術を行っていました。ですので、まずは変形した乳頭を最適な形態に形成し、そこから移植する半分の組織を採取するようにしています。これに関しては、私が過去の経験から個人的に行っている方法ですので、一般的な方法かどうかはわかりません。でも、形成外科や美容外科の基本的な手技を踏まえている先生なら、どなたでも行っているような小さな工夫ではないかと思います。授乳で乳頭が伸びてしまった方や元々乳頭が変形している方からは、「手術で(採取した健側の)乳頭が可愛くなった。気になっていたから一石二鳥で良かった。」と言って頂けることが多いので、そういう方には特にお勧めしている方法です。

 

【その5】 健側の乳頭が小さい場合は?
採取する健側の乳頭が小さいと、もちろん再建した乳頭も小さくなってしまいますが、移植の方法を工夫すれば、乳頭の高まりを出すことは可能です。他方、採取された健側はさらに小さくなってしまいますので、この場合は、陥没乳頭の手術で行うZplastyという方法を乳頭の基部に加えるなど、さまざまな形成外科的手法を駆使して、残った乳頭の高さも演出できるように工夫を行っています。

 

【その6】 術後の痛み
術後、採取側の乳頭には痛みが生じますが、内服でコントロールできる程度の痛みです。

 

【その7】 知覚の問題
患者さんがこの乳頭の健側からの移植を敬遠される理由として、健側に傷をつけたことにより、健側の知覚が低下するのではないかという点を心配する方もいらっしゃると思います。私が担当した範囲では、健側から移植する方法で再建される患者さんが多いのですが、ほとんどのケースで、術後の知覚はほぼ回復し、問題ないと言われる患者さんが多いようです。もっとも、健側の乳頭を採取する際に、授乳後の伸びた乳頭を修正したり、大きい乳頭を縮小した場合などして、通常より切開する部位が増えると、それに比例して知覚の低下も大きくはなるようです。

術後の痛みや知覚の問題などは、写真やデータといった客観的な資料ではわからないことこそ、これから再建しようという患者さんにとっては大きな関心事だと思います。例えば、術後の知覚の回復具合などについて、それがどのくらいの期間をかけて何パーセントまで回復したかといったことは、実際に再建を行った患者さんから聴き取るほかないのですが、実はこの点については、私がかつて担当した患者さん方にお願いして、アンケートという形ですでに聴き取り調査を行っています。その結果についての記事も、ぜひ参考にしてみてください。

 

 


 3 ➀の「(2)局所皮弁で再建する方法」


➀乳頭の高まりを何で再建するか」という話の続きになりますが、
「(1)健側の乳頭を半分移植する方法」以外の方法として
「(2)局所皮弁で再建する」という方法があります。

局所皮弁とは、血流を確保するために皮膚を一部をつなげた状態で弁状に切り上げて細工し用いる手法です。この局所皮弁の種類は数えきれないほどありますので、『乳房再建カラーアトラス(編著:矢永博子・野平久仁彦)』を参考に、以下に代表的なデザインをご紹介しておきます。

皮弁のデザイン(どのような形状に切り上げて細工するか)によって、「植皮が必要になる方法」と、「植皮が必要ない方法」とがあります。前者の方法の場合には、「乳輪部分のみ」か「乳頭および乳輪」に植皮が必要となります。植皮が必要でないデザインでも、着色の目的でわざと植皮を行う場合もあります。植皮が必要ないデザインで着色の目的で植皮を行わなかった場合には、着色のためにタトゥーを行うことになります。

【Star flap】 植皮が不要なデザイン(着色目的に植皮も可能)

 

【Skate flap】 乳輪部分には植皮が必要なデザイン
(乳頭はタトゥーまたは着色目的での植皮も可)

 

【矢永法】 乳頭と乳輪に植皮が必ず必要となるデザイン

 

具体的に説明をしていきますと、

【デザインはどうやって選ぶか?】
どの方法が最も優れているということは言えません。それぞれの術者によって得意な方法、好んで行っている方法がありますので、局所皮弁に植皮で着色したいのか、またはタトゥーで着色したいのかといった大まかな希望を伝えたら、あとは主治医の最も得意な方法で行うのが良いのではないかと思います。その際、仕上がりの傷跡がどうなるのか(傷が乳輪からはみ出すのか、乳輪の中で収まるのか)については前もって確認されることをお勧めします。

 

【どういう患者さんに適しているか?】
健側乳頭から採取したくない方や、健側が小さすぎる方には局所皮弁が適しています。

 

【術後の痛みは?】
再健側では知覚が健側より低下している場合が多いので、あまり大きな問題にはならないようです。術後の年数が経過し、知覚がかなり回復されている方でも、内服の痛み止めでコントロール可能な程度です。

 

【耐久性は?】
残念ながら、長期的には乳頭の高さが保てないのが局所皮弁の欠点です。皮膚でできているために長期間下着などの外力にさらされると、徐々に押しつぶされてしまうのです。この欠点を補うために、皮弁の中心に芯を入れることがあります。芯としては用いる組織は、人工物再建をされた患者さんには、私は耳介軟骨を用いています。耳介軟骨は採取の手間が少しかかりますが、柔らかいので細工しやすいのがメリットです。自家組織による乳房再建を行った患者さんで、肋軟骨を採取して腹部に埋め込んでいる方の場合には、その肋軟骨を取り出して用います。その他、私自身は行っていませんが、エキスパンダーを入れるときに一部肋軟骨を採取して胸部の皮下に埋め込んでおき、乳頭乳輪再建の際に取り出して芯として用いているという病院もあります。
もっとも、芯を用いたとしても、徐々に潰れてしまうことがあります。そこで、長期にわたって乳頭を良い状態に保つために、再建した乳頭を保護し続ける手段もあります。具体的な方法としては、スポンジをくりぬいて用いる方法、乳頭保護器の上部を切って用いる方法などありますが、保護の具体的な方法については、また別の機会にご紹介したいと思います。

 

 


 4 ②の「(1)植皮を行う方法」


つづいて、乳頭乳輪再建における「②着色の方法をどうするか」について説明します。

着色の方法には、
(1)植皮を行う方法
(2)タトゥーをする方法
の2通りがあります。

本項では、「(1)植皮を行う方法」について説明したいと思います。
【植皮の採取部位は?】
これには、ⅰ)健側から採取する方法、 ⅱ)ソケイ部から採取する方法があります。

ⅰ) 健側から採取する方法
健側乳輪の外側をドーナツ状に切除し、皮膚を採取します。採取した後は巾着縫合で傷を閉鎖しますので、手術直後はギャザーができたような状態になりますが、時間の経過するとギャザーは目立たなくなっていきます。健側から採取した皮膚を再建部位に移植すると、下の写真のような乳輪が完成します。継ぎ目が渦巻状に見えてしまうのが、この方法の欠点です。

健側の乳輪が大きいことを修正したい方や、植皮で着色したいけれどソケイ部からは採取したくないという方に適しています。
前述➀の乳頭再建との組み合わせですが、局所皮弁との併用は不可能ではありませんが、乳頭と乳輪の両方に植皮するのは、よほど健側の乳輪が大きくないと皮膚が足りないと思われます。ですので、実際には、「健側からの移植による乳頭再建」に組み合わせることがほとんどだと思います。

ⅱ) ソケイ部から採取する方法
ソケイ部と一言で言っても、採取する部位は患者さんによってそれぞれです。高齢になるほどソケイ部の色素沈着が薄いので、陰部に近い場所からの採取になります。患者さんによっては、陰唇の真横から採取することもあります。実際には、手術の前に患者さんと一緒に手鏡を使用して、健側に色が近い部位を確認してもらい、相談の上で採取する位置を決めています。
移植する皮膚は、理想は片側から一枚皮で採取することですが、健側の乳輪が大きい場合や患者さんの希望によっては両側から1枚ずつ、計2枚の皮膚を採取して使用する場合もあります。その場合は、継ぎ目が傷として白く残ります。下の写真はその例です。

乳頭の再建方法との組み合わせですが、「健側からの移植」とも「局所皮弁」とも組み合わせることが可能です。

 

【術後の痛み・経過は?】
健側から採取した場合の痛みはそれほどでもないようですが、ソケイ部から採取した場合には痛みが問題となることが多いです。ただ、痛みの感じ方には個人差が大きく、これまでの経験でも、全く痛くなくて痛み止めが不要だったという方から、2ヵ月間痛みが続いて大変だったという方まで様々でした。これから再建を行う患者さんが知りたいのは、これらの両極端な例ではなく、一般的な痛みの程度だと思います。この点については、アンケートを通じてもう少し具体的な情報をお伝えできると思います。

 

【術後の経過は?】
術後しばらくは炎症後色素沈着のため、健側よりかなり色が濃く見える方が多いです。一般的に、炎症後色素沈着は半年から1年で落ち着くことが多いですが、まれに2年程度かかる人もいるようです。
下の写真は、局所皮弁の矢永法にソケイ部の両側から2枚で植皮を行った患者さんの経過です。この患者さんは遠方の方で、乳頭乳輪の完成後の外来受診ができなかったため、メールでお願いしてみたところ、術後5年目の写真を自撮りして送ってくださいました(ありがとうございました!)。上下の写真で色調が異なるのは、撮影条件が異なるためですが、5年後の写真では、ほぼ左右差がない色調になっているのがお分かりいただけると思います。患者さんのお話では、術後半年ほどで写真のような状態に落ち着いたそうです。

 

【植皮のメリットは?】
タトゥーに比べると色が長持ちすること、質感が良いことが挙げられます。ただ、ソケイ部の色素沈着部位から採取した場合、加齢によって長期的には若干色が薄くなることがあるようですが、健側も薄くなるようですので、大きな左右差の問題にはならないようです。
また、植皮の場合には保険適用となることもメリットです。

 

【植皮のデメリットは?】
痛みという点とソケイ部に傷跡が残るという点以外のデメリットについては、左右の色の違いという点があります。陰部の最も色の濃い部位から採取しても、なお健側のほうが濃い場合には、どうしても左右差が出てしまいます。 下の写真は、乳頭乳輪再建後から1年後で、左右差が出ている方の例です。

 

 


 5 ②の「(2)タトゥーを行う方法」


ひきつづき、「②着色の方法をどうするか」についてですが、
以下では、「(2)タトゥーを行う方法」についてご紹介します。

乳頭乳輪の着色をタトゥー(入れ墨)で行う方法として、
私は、Permark社のタトゥ-マシーンと色素を使用しています。

私の担当する患者さんでは、植皮を選択される患者さんが圧倒的に多いので、私はタトゥーの経験がそれほどは多くなく、まだまだ技術が未熟です。このことは患者さんにも正直にお話しして、完成するまでに3回は来院することを見込んで頂くようにお願いしています。初回施術の1か月後に再来して頂き、2回目の施術を行います。その1か月後にみたび来院して頂き、必要に応じて3回目の施術を追加しています。

下の写真では、他院で局所皮弁を施行し、タトゥーのみ当院にて施行された患者さんの例をご紹介します。

1回目の施術から1か月では(左下の写真)、乳頭を中心に色素が入っていない部分がまだ見られるのがお分かり頂けると思います。

なお、立体的な乳頭部分にはどうしても色が入りにくいので、当院で最初から施術を行う場合には、乳頭部分に前もってタトゥーで色を入れておいてから、局所皮弁を挙上して乳頭を作成し、後日乳輪部分に追加でタトゥーをするように方針を変更しています。この方法の詳細については、局所皮弁とタトゥーの組み合わせ例のところで後述します。

右下の写真が2回目終了後の状態になりますが、このさらに1か月後の段階で、必要があれば最後の仕上げを行っています。

あくまで私の場合ですが、初回施術では30分ほどの(手術)予約枠を確保して行いますが、2回目以降の追加施術は短時間で済みますので、(手術枠ではなく)外来の診察の枠内で行っています。

タトゥー施術後は、乳頭の膨らみに合わせて中心をくりぬいた特殊なスポンジをあて、防水フィルムを貼り、1週間そのままにして頂いています(下の写真)。防水フィルムを貼ってはありますが、念のため入浴は控え、シャワーのみにして頂いています。1週間後にご自分でテープをはがし、以降はワセリンを塗って頂きます。処置の方法は病院それぞれだと思いますので、主治医がお勧めされる方法が一番だと思います。私も、より良い処置方法があれば、随時変更してく予定です。

以上の方法は、タトゥーの技術が未熟な私個人の一例でした。
どの病院でも、「1回で必ず完成しますよ」という説明はしないようですが、上手な施術者が行えば、1回でもかなり完成に近い状態になると思います。あくまで参考になればと、私の例をご紹介しましたが、くれぐれも「ああ、タトゥーって何回も何回もかかって面倒くさいんだ・・・。」と誤解のないようにお願いしたいと思っています。

【タトゥーのメリット】
採皮を行って他の場所に傷をつけたりしなくてよい。

【タトゥーのデメリット】
時間の経過によって、少しずつ色が薄くなってしまう。
長期的には追加で修正を行う必要が出てくる。
また、保険がきかず、自費になってしまう。

 

 


 6 組み合わせ➊「健側乳頭半分移植+植皮」


ここからは、前項までに説明した方法の組み合わせ例についてご紹介していきます。

これまでご紹介してきた、「➀乳頭の高まりを何で再建するか(乳頭の再建方法)」と「②着色の方法をどうするか(乳輪の再建方法)」を組み合わせると、以下の4通りになるということは冒頭で説明しました。

➊「健側乳頭半分移植+植皮」
➋「健側乳頭半分移植+タトゥー」
➌「局所皮弁+植皮」
➍「局所皮弁+タトゥー」

 

まず、➊「健側乳頭半分移植+植皮」についてご紹介します。

この方法は、私が担当してきた中では一番多いパターンです。
下の写真は、前項までの写真とは別の患者さんの写真です。
(写真の掲載をご快諾くださった患者さん方には心から御礼を申し上げます。)

 

手術に際して、懸案事項となる項目を説明していきます。

 

【麻酔の方法】
基本的には、局所麻酔で日帰りで手術可能です。手術時間は2時間程度です。局所麻酔での手術が怖くて、意識がない状態での手術を希望される方には静脈麻酔を行っています。その場合は、術後のリカバリールームやスタッフが確保できないことから、安全のために1泊入院としています。自家組織で再建された方で、乳頭乳輪の再建と同時に腹部の修正(脂肪吸引を含む)も同時に行う方など、局所麻酔の使用量が増えると見込まれる場合には、全身麻酔で行います。この場合も1泊入院となります。

 

【術後の固定】
術後は、移植した乳頭と植皮片がずれないように、ガーゼを皮膚に縫い付けた状態で終了します。これを形成外科の用語で「tie over=タイオーバー」と言います。

写真のように、厚みのあるガーゼを皮膚に固定するので、再建した胸にボリュームが出てしまいます。ワイヤー入りのタイトなブラジャーの使用は難しいので、余裕のあるカップ付きのブラジャーなどを着用していただきます。上着もゆったりとした服を着て来院していただくようお願いしています。

 

【術後の安静】
ソケイ部(または陰部)から採皮した方は、傷が開かないように気を付けて頂きます。タイオーバーのガーゼが濡れないように、入浴は下半身のみのシャワーとしています。傷は、シャワーで洗浄したのち(トイレの後は、ウオッシュレットで洗浄)、直接ワセリンを塗布し、生理用のナプキンを当ててもらいます。ナプキンが汚れたら交換して頂きます。

 

【術後の経過】
術後は 1週間後に再来し、タイオーバーのガーゼを除去します。 薄いガーゼを再度あて、防水用のフィルムを貼りますので、全身シャワーが可能となります(入浴はまだ不可です)。2週間後に再来し、抜糸を行います。その後は毎日自己処置となります。ご自身で処置ができるようになる術後2週間より入浴も可能となります。その次の再来は術後1ヶ月目頃になります。術後の処置に関しては病院それぞれ方針が異なると思いますので、主治医の指示に従ってください。移植した組織の生着の状態によって個人差がありますが、完全に傷が治るまでに1~2ヶ月を要することもあります。

 

 


 7 組み合わせ➋「健側乳頭半分移植+タトゥー」


乳頭乳輪再建の組み合わせの2つ目をご紹介します。
2つ目は、➋「健側乳頭半分移植+タトゥー」の組み合わせです。

この方法は、私の担当した患者さんでは非常に少ない方法です。ですが、少ないのはこの方法が優れていないからという訳ではありません。学会で乳頭乳輪再建のシンポジウムが行われると、「この方法を最も多く行っている。この方法を好んで用いている。」と発言される高名な形成外科の先生もいらっしゃいます。

下の写真は、私がこの方法を行った患者さんです。
腹部遊離穿通枝皮弁による一次一期再建の方なので、乳輪周囲と乳輪の内側と外側に横方向の傷があります。切除した乳輪部分に腹部の皮膚が出ていたので、腹部の皮膚の上に乳頭乳輪を再建したことになります。乳輪周囲にはまだ術後の炎症後色素沈着が残存しています。

 

【この組み合わせが適している方】
健側「乳頭」を半分切除することは許容できるけど、陰部や健側「乳輪」に採皮のために傷をつけたくないという方に適しています。また、乳輪のタトゥーの色がいずれ薄くなった際に、追加でタトゥーを行う必要についてもご了承いただける方に適しています。

 

【麻酔の方法等】
基本的には、局所麻酔で日帰りで手術可能です。手術時間は1時間程度です。➊の方法と同じで、静脈麻酔や全身麻酔の場合は1泊入院となります。

 

【術後の固定】
術後は、移植した乳頭がずれないように、ガーゼを皮膚に縫い付けた状態で終了します。これを形成外科用語で「タイオーバー」と言いますが、厚みのあるガーゼを皮膚に固定するので、再建した胸にボリュームが出てしまいます。ワイヤー入りのタイトなブラジャーの使用は難しいので、余裕のあるカップ付きのブラジャーなどを着用していただきます。上着もゆったりとした服を着て来院していただくようお願いしています。

 

【術後の安静】
傷は胸部のみですので、陰部から採皮した方のように安静に気を遣う必要はありません。タイオーバーのガーゼが濡れないように、入浴は下半身のみのシャワーとしています。

 

【術後の経過】
術後は 1週間後に再来し、タイオーバーのガーゼを除去します。 薄いガーゼを再度あて、防水用のフィルムを貼りますので、全身シャワーが可能となります(入浴はまだ不可です)。2週間後に再来し、抜糸を行います。その後は毎日自己処置となります。ご自身で処置ができるようになる術後2週間より入浴も可能となります。乳頭の生着の状態によって個人差がありますが、完全に傷が治るまでに1~2ヵ月を要することもあります。乳頭の傷がある程度落ち着いたら、着色の目的で乳輪にタトゥーを行います。当院で行ったことはありませんが、先に乳輪にタトゥーを行っておいてから、健側乳頭を移植しても良いと思います。

 

 


 8 組み合わせ➌「局所皮弁+植皮」


乳頭乳輪再建の組み合わせの3つ目についてご紹介します。
➌『局所皮弁+植皮』の組み合わせです。

前述のように、局所皮弁の種類は数えきれえないほどある上に、それぞれの医師がさらに独自の工夫を加えたりしているので、ここでその全てを紹介することは不可能です。そこで、ここでは局所皮弁の例として、私が用いている方法二つについてご紹介します。

 

【その1】二葉弁(矢永法)
乳房再建のみならず、再生医療を用いた瘢痕治療や美容外科治療でも全国的に有名な、Yanaga CLinic の矢永博子先生が考案された方法です。矢永先生は私の出身医局の大先輩でもあり、私が入局を決意する大きなきっかけともなった恩師の先生です。残念ながら、矢永先生から乳房再建について直接ご指導いただく機会には恵まれなかったのですが、九州の病院に勤務していた時代に、矢永先生から直接指導を受けた先輩医師から教えて頂きました。矢永法のメリットは血流が安定していることに加え、乳頭乳輪形成のための傷が乳輪内に収まるという点だと思います。この方法では、皮弁の芯と植皮(ソケイ部)が必要となります。

下の写真では、皮弁の中に耳介軟骨を芯として入れています。

下の写真は術後2年目の状態です。現在は術後5年以上が経過していますが、先日患者さんが最近の写真を自撮りして送ってくださいました(ありがとうございました!)。その写真では、術後2年目の状態と全く変わらず、乳頭の高さが保たれていました。乳頭の保護は行っていなかったそうですが、耳介軟骨を芯に入れているので、高さが保たれているのだと思います。

 

【その2】Star flap+植皮
もう一つ私が用いている方法が、Star flapと植皮を組み合わせる方法です。

現在のところ、残念ながら私の患者さんで術後の写真を掲載できるものがありません。

Star flapについては、愛知医大講師の梅本泰孝先生に教えて頂きました。その梅本先生から、Star flapのデザインや術中写真を頂きましたので、ここでご紹介させて頂きます。それが下の写真ですが、局所皮弁の上皮を除去し、その上にソケイ部から植皮を行うと、「Star flap+植皮」という組み合わせになります。Star flapでは、患者さんとの相談次第で、芯を入れる場合と入れない場合があります。

写真提供:梅本泰孝先生

 

【麻酔の方法】
基本的には局所麻酔で日帰りで手術可能です。手術時間は1時間程度ですが、耳介軟骨などの芯を用いる場合には、芯に用いる組織の採取のためにもう少し手術時間が長くなります。局所麻酔での手術が怖くて、意識がない状態での手術を希望される方には静脈麻酔を行っています。その場合は、術後のリカバリールームやスタッフが確保できないことから、安全のために1泊入院としています。自家組織で再建された方で、乳頭乳輪の再建と同時に腹部の修正(脂肪吸引を含む)も同時に行う方など、局所麻酔の使用量が増えると見込まれる場合には全身麻酔で行います。この場合も1泊入院となります。

 

【術後の固定】
術後は、移植した植皮片がずれないように、ガーゼを皮膚に縫い付けた状態で終了します。これを形成外科の用語で「tie over=タイオーバー」と言います。厚みのあるガーゼを皮膚に固定するので、再建した胸にボリュームが出てしまいます。ワイヤー入りのタイトなブラジャーの使用は難しいので、余裕のあるカップ付きのブラジャーなどを着用していただきます。上着もゆったりとした服を着て来院していただくようお願いしています。

 

【術後の安静】
ソケイ部から採皮するので、傷が開かないように気を付けて頂きます。タイオーバーのガーゼが濡れないように、入浴は下半身のみのシャワーとしています。ソケイ部の傷は、シャワーで洗浄したのち(トイレの後は、ウオッシュレットで洗浄)、直接ワセリンを塗布し、生理用のナプキンを当ててもらいます。ナプキンが汚れたら交換して頂きます。

 

【術後の痛み】
局所皮弁は再建した胸に作成するので、痛みはほとんど無いかごく軽度です。しかし、採皮を行ったソケイ部には痛みがあり、その痛みには個人差が大きいようです。

 

【術後の経過】
術後は 1週間後に再来し、タイオーバーのガーゼを除去します。 再建した乳頭をつぶさない程度の薄さのガーゼを再度あて、防水用のフィルムを貼りますので、全身シャワーが可能となります(入浴はまだ不可です)。2週間後に再来し、抜糸を行います。その後は毎日自己処置となります。ご自身で処置ができるようになる術後2週間より入浴も可能となります。その次の再来は術後1か月目頃になります。術後の処置に関しては病院それぞれ方針が異なると思いますので、主治医の指示に従ってください。乳頭乳輪の経過については、前述の4の記述もご参照ください。

 

 


 9 組み合わせ➍「局所皮弁+タトゥー」


組み合わせの最後になります。

乳頭乳輪再建の組み合わせ➍「局所皮弁+タトゥー」についてご紹介します。

➍「局所皮弁+タトゥー」の局所皮弁は、前項でもご紹介した愛知医大の梅本先生から教えて頂いたStar flapという皮弁を用いています。

梅本先生から写真を頂いていますので、ご紹介します。
下段の写真では、血管吻合を行うために取り除いて腹部に埋め込んで保存していた肋軟骨を芯に使用しています。腹部遊離皮弁を行った患者さんでは、腹部の瘢痕を修正する手術も同時に行うことが多いので、その際に取り出して乳頭乳輪の芯に用います。

 

手術終了時の写真です。

写真提供:梅本泰孝先生

 

傷が治ってから、乳頭と乳輪に着色の目的でタトゥーを行い、完成します。

私も、当初は同じ方法で再建を行っていましたが、前述の5のところでご紹介したように、乳頭部分が立体的でタトゥーが(私の技術では)入れにくいので、現在は先に乳頭部分のみにタトゥーを行っておいてから、局所皮弁の手術を行うようにしています。その方法の詳細については、また稿を改めて掲載したいと思います。

下の写真は乳頭部分に先にタトゥーを行ってから局所皮弁を挙上し、後日乳輪部分にタトゥーを追加して再建を終えた私の患者さんです。乳頭部分へのタトゥーを1回、乳輪部分へのタトゥーを1回行いましたので、合計2回のタトゥーを行っています。乳頭乳輪記事の連載にあたり、術後3年目の状態を自撮りして送ってくださいました(ありがとうございました!)。この方は耳介軟骨を芯として入れてあるので、高さも保たれています。患者さんの自覚的には乳頭の高さは7割は保たれているとのことです。

 

乳頭部分に先にタトゥーを行ったところ

 

【術後の痛み】
局所皮弁のみであれば、傷は胸部にしかありませんので、乳頭乳輪再建の中では最も痛くない方法と言えます。芯を用いる場合には、芯を取り出すために傷が入りますので、その部分が多少痛むと思われます。

 

【この方法が適している方】
健側の乳頭にもソケイ部にも傷をつけたくないという方に適しています。

 

【麻酔の方法】
局所麻酔で日帰り手術が可能です。

 

【術後の固定】
乳頭がつぶれない程度に厚みのあるガーゼをあてます。1週間後に再来して頂くまでは、ガーゼを濡らさないよう、下半身のみのシャワーとしています。

 

【術後の安静】
傷は胸部のみですので、特に安静は必要ありません。

 

【術後の経過】
完成後、乳頭乳輪がつぶれないように、術後最低3ヵ月はスポンジ保護をしていただいています。保護の方法については、次の項でご紹介したいと思います。

 

 


 10 術後の乳頭の保護


最後に、再建後の乳頭の保護について説明します。
私の場合、いずれの方法で再建した患者さんにも、術後3ヵ月は乳頭を保護して頂くようにしています。

患側をスポンジで保護する方法をご紹介します。
スポンジは医療用の『レストンスポンジ』を使用していますが、医療用でなくて普通のスポンジでも良いと思います。

術後の状態によって、以下のように使い分けをしています。

A:抜糸直後で、上皮化していない(治っていない)部分があり、浸出液が多いと思われる場合。傷に軟膏を塗り、非固着性のガーゼを小さくあて、その上からスポンジで保護。

B:ほとんど上皮化している(治っている)が、スポンジの孔から軟膏だけ塗りたい場合。

C:全て上皮化(皮がはって、傷がない状態)している場合。

 

ある患者さんの例をご紹介します。

下の写真は、乳頭を健側から半分移植、乳輪はソケイ部から全層植皮というパターンで乳頭乳輪を再建した方の写真です。術後2週間目に再来して頂き、患側も健側も抜糸が終了した時点で撮影したものです。

採取側である健側は全て傷が治っていますので、今後は保護する必要はありません。
再健側である患側は一部まだ上皮化(皮がはること)していない部分があります。つまり、まだ傷が治っていません。この場合は、Aの方法で保護して頂きます。

 

下の写真は術後6週目の状態で、全て上皮化して(皮がはって傷が治って)います。

この状態になったら、Cの方法で保護して頂きます。

BまたはCの状態になったら、スポンジではなく、授乳用の乳頭保護器を使用するのも選択肢となります。再建した乳頭の高さによっては適さない場合もありますので、主治医に装着した状態を確認してもらうのが理想です。

授乳に使用する乳頭保護器

A 乳頭保護器を乗せた状態
B 先端の飛び出しが気になる場合は、先端を切り、短くしてもよいです。
C 下着の中でずれるのが心配な場合は、テープで固定します。

参考までに、写真の乳頭保護器はピジョンのものですが、ドラッグストアや西松屋などに売っています。

MサイズとLサイズがあります。

 

以上が乳頭乳輪再建の基本的な説明でした。

他のページでも乳頭乳輪再建についての情報を掲載します。

そちらもぜひ参考にされてみてください。

 

 


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