腱膜性眼瞼下垂 (典型的な後天的眼瞼下垂)

「眼瞼下垂」(がんけんかすい)とは、

先天的(生まれつき)または後天的に瞼が持ち上がらない状態になること

を言います。

原因としては、以下のようなものがあります。

先天的な眼瞼下垂・・・・眼瞼挙筋の形成不全、欠損など
後天的な眼瞼下垂・・・・腱膜性眼瞼下垂、重症筋無力症、外傷、など、

後天的な原因の中で、最も多いのが『腱膜性眼瞼下垂』です。

以下では、この腱膜性眼瞼下垂について詳しく説明します。



 腱膜(けんまく)性眼瞼下垂とは


まずは正常な眼瞼の模式図です。

瞼(まぶた)を挙げる際には、眼瞼挙筋(動眼神経支配)とミューラー筋(交感神経支配)が協調して働き、瞼板を持ち上げ、瞼が挙ります。この時、眼瞼挙筋と瞼板をつなぐのが、挙筋腱膜(きょきんけんまく)という膜組織です。

腱膜性眼瞼下垂は、この挙筋腱膜と瞼板の連結が「緩んだり」「外れたり」することで生じます

腱膜性眼瞼下垂になり、挙筋腱膜と瞼板の連絡が「緩くなった」状態を示したのが下の模式図です。

腱膜性眼瞼下垂は、若い方でもコンタクトレンズの長期使用、花粉症などで目を擦る習慣のある方などに起こるのですが、加齢によっても起こってくるため、誰にでも起きる可能性がある疾患です。


 腱膜性眼瞼下垂の手術


腱膜性眼瞼下垂の手術では、緩んだ腱膜を瞼板に糸で固定することを行います。

腱膜性眼瞼下垂の手術では、緩んだ腱膜を瞼板に糸で固定することを行います。

下は、正面から見た図と断面で見た図です。

上記の術式は、信州大学形成外科の教授であられた松尾清先生(松尾形成外科・眼瞼クリニック院長)が考案された方法で、現在は一般的に『信州大方式』と呼ばれている方法です。この方法については、実際に信州大学の松尾清教授(当時)のもとに何度かおじゃまして手術を見学させて頂き、松尾先生が退官された後も、浜松の先生のクリニックまで何度もご指導を仰ぎに伺っています。実は、私自身の目も松尾先生にこの方法で手術を行って頂いています。その際、自分が手術されている術中写真などを頂いたのですが、それが今でも非常に参考になっています。


 腱膜性眼瞼下垂によって生じる様々な症状


眼瞼下垂の中でも、最も多く、誰でもなる可能性があるのが、『腱膜性眼瞼下垂』ですが、そこからは様々な症状が引き起こされる可能性があります。

では、「腱膜性眼瞼下垂になると、どのような症状がでるのか」をご紹介します。

その機序を解明して、眼瞼下垂の新しい治療法と概念を確立されたのが、上述の松尾清先生です。

その松尾先生が『腱膜性眼瞼下垂』ついて詳しく書かれたご著書がこちらです。

実に様々な症状が起こりうる腱膜性眼瞼下垂ですが、松尾先生のご著書から、簡単にその一部を抜粋して紹介します。

腱膜性眼瞼下垂の模式図をご覧になりながらお読みください。

①眼瞼挙筋が強く収縮→目の奥の痛み、群発頭痛、眼精疲労の可能性

挙筋腱膜と瞼板がはずれているので、挙筋の力が伝わりにくくなります。力を伝えようと挙筋が頑張るために、眼の奥が痛くなったり、群発頭痛が起こったり、眼精疲労が起こる可能性があります。

②ミュラー筋が代わりに頑張る→ミュラー筋を支配する交感神経が過緊張になる、噛みしめが起きる

挙筋の力が不十分なので、もう一つの筋肉であるミュラー筋が代わりに頑張ろうとします。ミュラー筋を支配しているのが、交感神経なのですが、ミュラー筋が頑張ることで、交感神経が刺激され、交感神経が過緊張の状態になります。交感神経が過緊張になると、不安感を覚えたりする方もいます。また、交感神経過緊張の状態が長く続くと、自律神経のバランスがくずれて、うつになる方もいるようです。

もう一つ、ミュラー筋の働きを助けるために起こることが、奥歯を噛みしめることや舌で前歯を押すことなのだそうです。歯が骨に付着している部分に、『歯根膜』というものがありますが、奥歯を噛みしめたり舌で前歯を押すと、この歯根膜にあるセンサーが刺激され、固有知覚という刺激が脳に入り、交感神経の中枢が緊張します。この交感神経の緊張が、同じく交感神経に支配されているミュラー筋の働きをアシストするのだそうです。あきにくい瞼を開けるために、ミュラー筋をはたらかせようと、奥歯の噛みしめが起こり、ミュラー筋をしらないうちにアシストしているのです。そして、咀嚼筋が原因の頭痛が発症したり、顎関節症になる方もいるようです。

③眉を挙げる前頭筋、頭皮を後ろに引っ張る後頭筋を収縮させる、顎を挙げる→頭痛、肩こりが起こる

瞼が持ち上がらないのを助けるために、おでこの筋肉(前頭筋)が頑張ることで、額にシワが入ります。また、その前頭筋につながる、首の後ろにある後頭筋も一緒に収縮することで、筋緊張性の頭痛や肩こりが起こる可能性があります。

以上でご紹介した症状は、松尾先生の理論のほんのごく一部です。さらに詳しくお知りになりたい方は、ぜひ松尾先生のご著書をお手に取ってみてください。


 瞼を開けにくくしている組織の処理


少し専門的になりますが、もう少しだけ、手術の詳細についてご紹介します。

眼瞼下垂の手術とは、まさに、『瞼を開けやすくする』ことを目的とした手術です。

ですが、実は、瞼には、『瞼を開きにくくしている組織』が存在します。

簡単に言うと、手術では「瞼板からはずれてしまった挙筋腱膜を瞼板にしっかりと固定する」ことを行うのですが、同時にこの『瞼を開きにくくしている組織』の処理を適切に行うことが重要です。

そこで、この『瞼を開けにくくしている組織=開瞼抵抗となる組織』の処理について説明します。

①下位横走靭帯

日本人は、まぶたが厚くて目が細く、折りたたみ線のない一重まぶたの人が多いのですが、これは「下位横走靭帯」と呼ばれるスジによるものだそうです。我々日本人は、モンゴロイドに属する人種なのですが、我々の祖先は極寒の地で眼球を守るために、この下位横走靭帯が発達したようです。この下位横走靭帯が発達していると、瞼が大きく開くのを邪魔するために細目になってしまうので、松尾清先生はこれを『細目靭帯』と呼称されています。これが発達している人ほど、眼が細く、瞼が厚く、一重まぶたになります。

眼瞼下垂の手術は『瞼を開けやすくする手術』ですので、この下位横走靭帯が発達した患者さんの場合は、この靭帯を処理(切除)することが重要になります。(なお、上記の内容は、松尾先生のご著書を参考に記述してあります。)

②Lateral horn、Medial horn

内角・外角とも言います。これについては松尾先生のご著書には書かれていません。おそらく、専門的になりすぎるので、省略されたのではないかと推測します。

下は、野田美香先生の『専修医石島くんの眼瞼手術チャレンジノート』からお借りした図です。

手術の際、上図の「Lateral horn,medial horn切開」の線で腱膜の両側を切除すると、私が書いた下の図左のような仕上がりになります。

この外角と内角を切除するかどうかについては、形成外科医の間でも意見が分かれるところです。形成外科医でも、「腱膜を固定してみて問題なく挙上されれば切除しない。挙上の具合が足りない場合にのみ切除する」という意見もあります。眼科の先生はさらに、全く触らないという考えの方も多くいるようです。中には、「過ぎたるは及ばざるがごとし」 と、内角外角を切除すること自体を否定されている先生もおられるので、私も全例で切除するか迷っていた時期がありました。

内角・外角を切除することのデメリットは、術後の腫れが若干強くなること、手術時間が長くなること、この部位を切除するときに手術の助手が必要になることです。この部位を切除することで、腫れが引いた後の最終的な仕上がりの質が下がることはありません。患者さん側のメリットだけを考えれば、一生に一度するかしないかの大きな手術ですので、多少術後の腫れが強くなっても、多少手術の時間が長くなっても、結果として機能的に優れている方がいいはずだとの考えから、現在は全例で切除しています。


 まぶたの余った皮膚をどこで切除するか


腱膜性眼瞼下垂の手術の本質は、加齢や物理的な摩擦で伸びてしまった挙筋腱膜を瞼板に固定し、挙筋の力が瞼板に正しく伝わるようにすることです。

ところが、実際の手術では、多くの患者さんにおいて瞼の皮膚が伸びて余ってしまっているので、同時に皮膚を切除することになります。

余っている瞼の皮膚をどこで切除するか」については2つの選択肢があります。

①瞼縁切開

特徴:二重になる
メリット:腱膜固定が同時にできる
デメリット:腫れが強い

②眉下切開

特徴:印象変化が少ない
メリット:腫れが少ない
デメリット:腱膜固定は同じ傷からできない(腱膜固定のためには瞼縁を切開する必要がある)


2つの方法を図解すると次のようになります。

どの方にも共通することですが、眉に近いほど皮膚は厚く、瞼縁に近いほど皮膚は薄くなります。全体的に皮膚が非常に厚いタイプの方は、眉下で皮膚を切除した方がより自然になります。ですが、腱膜固定が一緒の傷からはできませんので、後日、腱膜固定の手術を別に行う必要があります(先に腱膜固定をする場合もあります)。

眉下での皮膚切除と瞼縁での腱膜固定の二つの手技を、患者さんの強い希望で同時に行ったこともありますが、手術の質が下がるのでお勧めできません。また、眉下切開において保険が適応されるのかについては、ケースバイケースだと思います。機能改善が目的ということが明らかな場合には、眉下切開も保険で行っていますが、瞼縁で切開すれば1度で済む手術を、整容性を向上させる目的で眉下の切開にするのであれば、やはり自費で行う必要があると思います。形成外科医であれば、機能の改善を目的に保険で手術を行ったとしても、整容性に配慮して行うのは普通のことですが、整容性を特に重視した手術の場合には、手術の目的、手術にかける時間、手間、材料費などが全く違ってきますので、多くの病院で自費になっているのはそういう理由だと思います。

 


 眼瞼下垂のその他の症例写真


 眼瞼下垂の手術の症例写真は☞こちらをご覧ください。

 


 眼瞼下垂の手術の料金


保険診療の場合 自己負担で45,000円程度(3割負担の場合)
(保険診療にならない場合には自費になります)
(保険診療は「機能改善」が目的となります)

自費診療の場合 症状に応じて250,000円~350,000円
(特に整容性(仕上がりの綺麗さ)を重視される方には、自費での手術をお勧めしています。)

 


 当クリニックでの眼瞼下垂の手術(概要)


眼瞼下垂の手術は、当クリニックが得意とする手術のひとつです。
手術は日帰り(局所麻酔)で行います。
手術時間は約60分~90分です。
手術の翌日に再診、約10日後に抜糸を行います。
患者様の症状に合わせて、腱膜固定、皮膚切除、筋膜による吊り挙げなどの方法を選択します。

ご予約・お問い合わせ
0586-82-7744