世の中で常識とされていた概念が覆えることを「パラダイムシフト」というそうです。パラダイムシフトはどの業界でも起こり得ることだろうと思いますが、医学界でも時々起こります。
形成外科の関係する最近の例でいえば、それまでは「傷は消毒して乾燥させて治すのが常識」とされていたものが、「傷は消毒してはいけない、乾燥させてはいけない」という考え方(湿潤療法)に変化してきたということが挙げられます。実際の方法論に関しては様々な意見がありますが、「新しい創傷治療~消毒とガーゼの撲滅を目指して~」というブログでこの治療について様々な情報を発信されているのが、私たち形成外科医の間でも有名な夏井睦先生です。
この例のようにどちらの考え方が主流かはっきりとしていく場合もあれば、二つの相反する意見のどちらが真実なのかまだまだ分からないという場合も実際には多くあります。例えば、健康に関しては「朝食」についての考え方。現在は、健康のためには朝食は非常に重要であって、朝食抜きの弊害は大きく、子供の学力も朝食抜きの方が悪い、というのが世の中の主流ではないかと思います。ところが、朝食は抜いたほうが健康に良い!という意見もあります。これは、朝は排泄の時間であるから、朝は食事を抜いて消化管を休ませるべきだ、という考え方で、これに関する本も出ています。
他の例としては、「肉食」の是非も挙げられます。1977年の米上院特別委員会によるマクガバンレポートでは、総摂取カロリーに占める動物性たんぱくの割合が25%を超えると癌の発生率が上がるので肉食は避けるべきだと主張されているのに対し、先日このブログでもご紹介した「分子整合栄養医学」の溝口先生は、癌になったときほど肉を食べるべきだという本を出していらっしゃいます。
その他にも「乳がんと牛乳」の関係について、牛乳は摂取すべきでないという主張があるのに対し、牛乳を摂取したグループの方が癌の発生率は低かったという論文が出されていたりします。
医者の私からしても「一体どちらが真実なのだろう?」と疑問を持つことだらけなのですが、私自身は、迷った時には頭からどちらかの意見が正しいと決め付けるのではなく、どちらの意見にも両方等しく耳を傾けてみることにしています。そして、両方の立場の本を読んでみて、自分が心から納得したならば、それまでの常識をも改めることのできる柔軟性は持っていたいと思っているところです。
さて、前置きが長くなりましたが、今回のメインテーマである「糖質制限」についても、上記の例と同様に、いろいろな考え方が主張されています。
(後篇につづく)