昨年、大阪で行われたオンコプラスティックサージャリー学会で、
京都府立医科大学形成外科の素輪善弘先生が、乳頭のボリュームを確保・維持するための手術方法の工夫を発表をされていました(素輪先生のご紹介ページはコチラ)。これはよいアイデアだと直感的に感じ、早速取り入れてみましたので、素輪先生のご承諾のもと、その工夫を紹介をしたいと思います。
その前に、局所皮弁による乳頭再建の問題を再度ご説明したいと思います。
それは、
➀再建できるボリュームに限界があること
②再建した乳頭の高さが長期にわたり維持しにくいこと
の2点だと思います。
素輪先生のご発表では、これらの2点を解決する工夫がなされていました。
以下、私が行ったデザインに素輪先生の方法を取り入れた場合で方法を説明します。
(素輪先生が発表されていたデザインとは異なります。)
赤く塗りつぶした部分は真皮を薄く薄く植皮の厚さで挙上し、中心の三角の部分には皮下脂肪をつけて挙上します。組み立てられた乳頭は、真皮が残っている赤い部分の上に乗ることになり、土台部分に真皮があるため、沈み込みの予防が期待できるのです。水色の↑が示す中心の三角部分に皮下脂肪をつけることでボリュームを確保しつつ(問題➀の解決)、真皮を残したことで沈み込みを予防する(問題②の解決)のです。なかなかイメージが難しいと思いますが、ポイントはこの2つの問題を解決できているという点にあります。
真皮の上に局所皮弁を乗せるという考えは、以前にも記事にした東京大学の小宮先生も行なっている工夫です(記事はコチラ)。小宮先生の方法も、上記の問題①と②を解決する方法になっています。小宮先生の方法では、土台部分の表皮を削って取り除き、土台の部分を新しく作って局所皮弁を乗せているのに対し、素輪先生の方法ではその表皮を有効利用しているところが異なる点だと思います。
経過写真です。
先端の三角部分にも皮下脂肪をつけて挙上するとボリュームが増加する分、そのボリュームで先端が閉じにくくなりましたが、この両横に付け足した半月状の植皮のような薄い皮弁が、溢れ出そうな皮下脂肪の蓋になり、縫合閉鎖が可能でした。
術後4日目の写真では、真皮を残すために薄く挙上した部分だけ血流が悪く鬱血していましたが、その後は壊死する事もなく、治癒しました。植皮が生着するのと同じ経過だと思います。
正面からの写真しか撮っておらず、高さが分かりにくいのが申し訳ありません。
また患者さんが再来されたら経過写真を撮らせて頂こうと思います。
ただ、これらの工夫を行っても、局所皮弁が皮膚からできていることには変わりなく、長期的にはその皮膚そのものが外力によって潰れ、高さが保てない可能性は高いと言えます。しかし、これらの工夫行っている場合といない場合とでは、高さやボリュームが維持される期間が異なってくるだろうと予想しています。
素晴らしいアイデアを発表をして頂き、素輪先生には感謝したいと思います。素輪先生とは2017年の形成外科総会に併せて開かれた乳房再建外科医の会『コロナの会』で、素輪先生が幹事を務めてくださった時に少しだけお話させて頂きました。学会でもいつも積極的に様々な発表をされていて、とても勉強になっています。今後も乳房再建の分野を牽引されていく先生のおひとりだと思います。