前回は「下垂のない方」の場合を説明しました。
今回は、健側乳房に下垂がある方のエキスパンダーの拡張について説明してみたいと思います。
その前に、下垂がある方の人工物による乳房の再建方法についておさらいしてみます。
(詳しい記事は ⇒ コチラ)
下垂がある場合の乳房再建の選択肢としては、
①下着をつけた状態で左右がそろう位置でインプラントを留置する
②下着を外した状態で左右の見た目のバランスが合うように、インプラントを低めに留置する
③下垂した健側の乳房の挙上術を行い、下がった胸を引き上げて左右のバランスをとる
という3つの方法から選ぶ、というのがこれまでの再建方法でした。
ここに、白石先生が考案した④つ目の方法『下垂した状態を可能な範囲で再現する再建方法』が加わります(詳しいことは私の過去記事をご参照ください ⇒ コチラ)。
前述の①~③のいずれかを選択した場合のエキスパンダーの拡張は、前回記事にした「下垂のない方」の拡張方法とほぼ同じとお考えいただいてよいと思います。今日ご紹介するのは、④つめの選択肢である白石先生の方法を選択した場合の拡張方法です。
今回の写真の提供にご協力くださった患者さんは、健側乳房のボリュームはそこまで大きくないものの下垂があります。健側の挙上術も提案しましたが、「健側には傷をつけたくない、現在の健側の状態に近い形態で再建してほしい。」というはっきりとした希望がありました。そこで、白石先生の方法を選択することになりました。
計測のポイントは前回と同じ位置です。
上の写真で示すと、 A=A’
さらに細かく書くと、
☆A'=A(健側の長さ)+切除予定の瘢痕の幅+α(0.5cm程度)
写真の患者さんは現在まだ拡張途中ですが、写真撮影時の実測値は
A = 26.5cm
A’ = 26cm
健側との差が5mm、瘢痕の切除幅を7mm、余裕分のαを5mmとすると、あと1.7cm拡張が足りない、という判断ができます。
同じ患者さんの正面の写真です。
下垂した乳房の皮膚の長さは、下垂してない乳房よりも長くなりますので、患側エキスパンダーの拡張もその分多く必要になります。突出度は当然、健側よりもかなり大きくなります。白石先生の方法で下垂のある乳房再建を希望された場合は、エキスパンダーの拡張中はかなりの左右差が出るということがお分かりいただけると思います。
そして数か月が経過し、インプラントへの入れ替えが終了しました。
改めてこの患者さんの経過をまとめますと、
この患者さんは一次二期再建の方でした。木沢記念病院で乳房の切除と同時にエキスパンダーを留置しました。術後に創縁の治りが悪かったため、生理食塩水の注入が直ぐには開始できず、傷が全て治癒した術後1ヶ月目から生理食塩水の注入を開始しました。手術から8か月かけて生理食塩水の注入が終了しました。拡張終了の目安は、前回の記事同様、皮膚の長さを目安にしました。患側の鎖骨中点から乳房下溝線までの長さが、健側の同じ位置の長さに瘢痕切除の幅を足した長さとほぼ同じになった時点で終了にしました。前回のブログ記事の写真の状態から、さらに160cc追加しています。本当は余裕分をもう少しだけ拡張したかったのですが、患者さんが「大きくて辛い」とおっしゃったので、終了にしました。拡張終了時点での注入量は620ccで、予定インプラントが130ccでしたので、乳房の下垂がある患者さんが「下垂感がある乳房再建」を希望された場合、いかに皮膚を多く拡張しなければならないかがお分かりいただけると思います。拡張終了から6か月弱待機し、インプラントの入れ替えが終了しています。
このように下垂が強い患者さんの場合は、健側を挙上することも選択肢になりますので、その選択肢も患者さんに提示しましたが、健側を傷つけたくないというお気持ちが強いと言われましたので、挙上は行いませんでした。その場合、エキスパンダー留置中は、健側よりかなり大きなボリュームの胸で過ごさなければならないという点が患者さんにとっては大変なことだと思います。
今回も、患者さんからは写真使用に多大なご理解とご協力を頂きました。
心よりお礼を申し上げます。